乾癬性関節炎の治療

治療は早期から始めることが大切

乾癬性関節炎の治療では、関節の腫れや痛みを抑えて、日常生活での支障を減らし、生活の質(QOL)を上げることを目指します。また、乾癬性関節炎は病状が進行すると、関節に変形や破壊が起こり、元の状態に戻らなくなるおそれがあります。こうした重い症状を防ぐためにも、できるだけ早く診断を受け、早期に治療を始めることが重要です。
医師は、患者さんがどのような症状を持っているか、その中でも特に活動性(=病気の勢い)の高い症状がどこかを見極めて、治療の優先順位を考えます。乾癬と乾癬性関節炎に関する国際的な研究グループ (GRAPPA)が公表している乾癬性関節炎の治療指針1) では、代表的な6つ(皮膚の症状、指趾炎、爪の症状、末梢関節炎、脊椎炎、付着部炎)と、2つの特徴的な症状(ぶどう膜炎、炎症性腸疾患)を治療領域としています。その8つの治療領域の中で、活動性の高い症状をターゲットとした治療方法が推奨されています。

関節の症状に対する治療方法は、関節の変形や破壊の進行を防ぐための薬物療法がメインとなります。ただ、薬物療法と合わせて、生活習慣の改善、運動療法、作業療法なども行います。なお、関節の症状が進んでしまった場合には、手術が検討されることもあります。

1) Coates LC, et al.: Nat Rev Rheumatol, 8: 465-479 (2022)

乾癬性関節炎の一般的な治療方針(関節の症状)

乾癬性関節炎の治療法を薬物療法と非薬物療法に分けて示した図。薬物療法では早期治療と病勢コントロールが重要で、非薬物療法では生活習慣改善やリハビリ、手術が選択肢となる。
治療目標を立てることの重要性 参照
日本皮膚科学会ガイドライン:乾癬性関節炎診療ガイドライン2019,日皮会誌,129,13:p2698(2019)より作図

関節症状に対する薬物療法

外用薬(湿布、塗り薬)、ステロイド注射

関節の痛みや炎症を和らげるために、いわゆる「痛み止め」、お薬の分類名としては「NSAID」(非ステロイド性抗炎症薬)と呼ばれる湿布や塗り薬を使います。
また、関節の症状に対して、ステロイドを関節に注射することもあります。

内服療法

NSAID(非ステロイド性抗炎症薬)

関節の腫れや痛みに対して、まず使われることが多いのがNSAIDです。いわゆる「痛み止め」と呼ばれるお薬です。腫れや痛みを和らげる作用があります。

csDMARD(従来型合成抗リウマチ薬)

名前に「リウマチ薬」という言葉が入っていますが、乾癬性関節炎にも使われる飲み薬です。過剰な免疫のはたらきを抑える「免疫抑制作用」と、炎症を抑える作用があります。
飲み始めてすぐに効果があらわれるお薬ではないので、医師の指示に従い飲み続けることが大切です。
なお、免疫を抑える作用があるため、感染症には十分気を付ける必要があります。

PDE4阻害薬

炎症を引き起こすタンパク質(サイトカイン)の産生にかかわる、PDE(ホスホジエステラーゼ)4という酵素のはたらきを抑える飲み薬です。PDE4のはたらきを抑えることで、過剰になった免疫のバランスを整え、皮膚や関節の炎症を抑えます。
なお、免疫に影響を及ぼすため、感染症には十分気を付ける必要があります。

JAK阻害薬

JAK(ヤヌスキナーゼ)という酵素は、免疫細胞にあるサイトカイン受容体に結合して、サイトカインから細胞内への炎症を引き起こすための情報伝達をコントロールしています。JAK阻害薬はそのJAKに結合することによって、炎症を引き起こすための情報をブロックし、皮膚や関節の炎症を抑える飲み薬です。
なお、免疫を抑える作用があるため、感染症には十分気を付ける必要があります。JAK阻害薬の使用前には、感染症の中でも、特に結核やB型肝炎の感染歴があるか確認します。

生物学的製剤:TNFα阻害薬、IL-17阻害薬、IL-12/23阻害薬、IL-23阻害薬

炎症を引き起こすタンパク質(サイトカインなど)に直接作用して、そのはたらきを抑えることで、皮膚や関節の炎症を抑える注射薬です。関節の痛みや腫れを抑えるだけでなく、関節の破壊を抑える作用もあります。
なお、生物学的製剤は、お薬が作られる過程から、「バイオ製剤」とも呼ばれます。
作用するサイトカイン別に、さまざまな種類のお薬がありますが、共通する注意点として、免疫を抑える作用があるため、感染症には十分気を付ける必要があります。生物学的製剤の使用前には、感染症の中でも、特に結核やB型肝炎の感染歴があるか確認します。

①TNF(腫瘍壊死因子)α阻害薬
乾癬の皮膚の症状や関節の症状において、重要な役割を果たしているサイトカインの一つに、TNFαがあります。TNFα阻害薬はTNFαに結合し、そのはたらきを抑えます。

②IL(インターロイキン)-17阻害薬
IL-17は乾癬を引き起こす中心的な役割を担うとされるサイトカインです。IL-17阻害薬はIL-17に結合し、そのはたらきを抑えます。

③IL-12/23阻害薬
炎症を引き起こす作用のあるIL-12とIL-23という2つのサイトカインは、p40という部分を共通して持っています。IL-12/23阻害薬はこのp40に結合することで、IL-12とIL-23の両方のはたらきを抑えます。

④IL-23阻害薬
炎症を引き起こすサイトカインのIL-23に選択的に結合して、そのはたらきを抑えます。

薬物療法以外の治療方法

生活習慣の改善

薬物治療と並行して、生活習慣に気を付けることも大切です。
タバコは皮膚の症状、感染症、合併症だけでなく、患者さんの健康そのものに対しても悪影響を及ぼすおそれがあります。タバコを吸われる方は、まずは禁煙をしましょう。
また、肥満(BMI値 25以上 )の場合、摂取カロリー制限による体重の減量は、一緒に行っている治療の効果を高めることにもつながるとされています 1)。栄養バランスに気を付けて、無理のない範囲で食生活を整えていけるとよいでしょう。

※ BMI値:体重(kg)÷{身長(m2)×身長(m2)}
1) 日本皮膚科学会ガイドライン:乾癬性関節炎診療ガイドライン2019,日皮会誌,129,13:p2727(2019)

運動療法・作業療法

乾癬性関節炎の治療には、関節や筋肉の機能を保つための「運動療法」も大切です。無理のない範囲で体を動かすことで、関節の動く範囲(可動域)を保つ、筋力の低下を防ぐ、心肺機能を維持する、日常生活の動作を改善するといった効果が期待されます。また、関節に負担をかけないように体を動かす工夫や、日常生活において関節を守る方法を学ぶ「作業療法」も治療の一環として取り入れられています。
運動療法と作業療法は、自己流で行うとかえって症状が悪化するおそれがあります。まずは、医師や理学療法士、作業療法士など専門スタッフに相談し、正しい方法を教わることが大切です。

手術

関節の変形が進んでしまい、強い痛みが続いたり、関節の動きが制限されて日常生活に支障をきたす患者さんには、関節の手術が検討されることがあります。よく行われるのが、変形した関節を人工関節に置き換える手術(人工関節置換術)です。
ただし、乾癬性関節炎の患者さんは、皮膚の刺激に対して過敏な状態になっていることがあり、手術に際しては皮膚の状態にも十分な配慮が必要になります。

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